2021.6.21

対談#1:自前の技術でクリエイティブに
-LAB.AS 三日月 x (株)GOCCO. 森

記念すべき最初のインタビューのお相手は岐阜県のクリエイティブIT企業:GOCCO.(ごっこ)の森さん。GOCCO.のプロダクトを例に取り上げながら、テクノロジーとクリエイティブを融合させることの重要性について語りました。

 

テクノロジーとクリエイティブを融合させる

森 誠之:GOCCO.株式会社取締役。大阪府出身。DJ活動の傍ら、大学卒業後に印刷会社の経営を始める。4年ほど経て経営権を移譲し、IAMASに入学。在学中の2009 年、木村亮介氏とGOCCO.を創業。

三日月睦  LAB.ASはこの3月(2021年3月)に法人化しましたが、GOCCO.さんには、2年ほど前の「サークルLAB.AS」という準備段階から、運営コンサルタントとしてお手伝いしていただいた。自分たちだけではどうしてもクリエイティブな領域に飛び込めなかったが、そこに貴重なご意見をいただきましたね。「LAB.AS誕生の陰にGOCCO.あり」という感じです。

森誠之さん われわれは壁打ち相手でしたね。世の中に尖った会社は山ほどあるが、GOCCO.はどちらかというと寄り添う姿勢が強い会社です。自分たちが思う未来をよその企業に押し付けるのではなく、相手の目線に合わせたテクノロジーを提供するということを僕らはいつも心がけています。サークルLAB.ASも最初は「テクノロジーを持っているけど、どう差別化したらいいかわからない」という感じでしたね。しかし、テクノロジーは適材適所。「このテック、すごいやろ」というのはあまり意味がない、とアドバイスさせていただきました。

既に持っている技術を洗練させる

三日月 当時、紹介していただいたGOCCO.のアイテムでPITは衝撃的でした。紙なのに音が出る。そして見た目がすごく洗練されている。単なる技術屋さんじゃないないな、と思いました。テクノロジーとクリエイティブが見事に融合している会社というイメージを抱きましたね。

森さん PITの原型は、僕らの母校で地元・大垣市にあるIAMAS(岐阜県立情報科学芸術大学院)の先輩が作ったものです。ただ、最初は画びょうとアルミホイルで作っていた。これをもっと洗練したものにしたいと考えて思いついたのが導電性インクでした。このインクは半導体製造で回路のパターンをブリントするのに使われていますが、小さなものだけでなく大きなものも作れるんです。大阪にある導電性インクのメーカーに行って「われわれはこういうことをやりたい。一緒にやりませんか」と提案し、オリジナルの導電性インクから製造しました。


PITを使ったプロダクト「POCARI MUSIC PLAYER」。PITは印刷物をスマートフォンやタブレットの画面にあてるだけで、音楽や動画などアプリやWEBに組み込まれたコンテンツを呼び出すことができるシステム。自社開発の導電性インクを使っており、雑誌広告やポスターなど紙メディアの新たな形として採用されている。

三日月 スマホにかざすとコンテンツが現れるという点では「QRコード(二次元バーコード)やNFC(近距離無線通信)とどう違うのか」という人もいそうですね。

森さん QRコードやNFCは基本的に非接触です。非接触ってスマホのようなデバイスに何かを認識させられることは分かっても、「何かをやっている」という感じにはならないんですよ。人間の感覚として。でも、僕らのPITはスマホの画面に直接タッチしたり、こすったり、動かしたりできる。これが大事なんです。例えば子供が「お腹が痛い」といったとき、手をあててやると痛みが和らぐといいますね。それと同じで、触るとか、触感を持つことによって人間は「ここにモノがある」と実感ができるわけです。PITは企業のプロモーションやカプセルトイなどに使われていますが、次のステージでは認証技術としても応用できないかと考えています。

三日月 テクノロジーをうまく用途に落とし込んで、クリエイティブにまとめる力があることが大事なんですね。そこはもうコンセプトがぶれないところです。最近聞いて面白かったのは、バルーンを使って酵母菌を成層圏という宇宙の手前まで打ち上げた話。厳しい環境下で9割ぐらいの菌は死滅するが、生き残った酵母菌を回収し、それを使ってパンを作り、しかも大垣市内にパン屋を開いてそこで販売する。点と点を線どころか面にして地域活性化という戦略的なエッセンスまで混ぜ込んでいる。この話を聞いた時、頭がいいなと思いましたね。


GOCCO.の「shuttleD(シャトルド)」は、気象観測用バルーンに特殊なモジュールを連結させて上空3万メートルの成層圏まで飛ばしたあと、それを落下させ、海上で回収する。

森さん 最初は魚を飛ばしていました。テレビ番組で宇宙で何かできないかという企画をしていて、成層圏技術にずっと取り組んでいる知り合いの徳島大学の准教授に聞いたら「成層圏は気温がマイナス70度で気圧がゼロだから水分がどんどん飛んでいく。フリーズドライになるのでは」と教えてくれた。それをテレビ局に提案したら「面白い」となって、生の魚を干物液につけ、特殊な袋に入れて打ち上げたら、ちゃんと干物になって帰ってきたんですよ。細胞膜を壊さずに急激に凝縮するので、めちゃめちゃおいしかった。栄養成分も普通の4倍になる。でも、干物を1匹3万円くらいで売らないとコストにあわない。軽くて培養できるものは何か、って探したら、「酵母菌がいいのでは」となったんです。回収した菌は現在、大垣で培養しており、クラウドファンディングで資金を募って7月にもパンを販売する予定です。僕らはすべてDIYというか、打ち上げから回収まで全部ノウハウを持っています。今は気球自体を作るフェーズまで来ました。このスペースバルーンは簡単に言うと宇宙テックなんです。これだけの技術を積み重ねて何をやっているかというと「パンを作っている」。これがいいんですよ。

三日月 「うちはこんな技術があるんだぞ」って自慢したところで、全然面白くない。

森さん よそから見たらすごく軽く見えるかもしれないけれど、この裏にある技術が今後めちゃくちゃ使えるわけです。成層圏ってどんなところかというと、紫外線や宇宙線ががんがん飛び交っている。火星とか原始地球の環境に近いんです。ここをずっと使えるようにすれば、火星移住とか原始地球の研究が進む可能性がある。僕らはプラットホームを持っているが、他社がすぐやろうと思ってもできない。そこがパンを作りながらやっている強みなんです。しかも、コストはJAXA(宇宙航空研究開発機構)なんかと比べると100分の1とか1000分の1。成層圏よりもっと上の方をやろうとしている人が多いから、ここはブルーオーションかもしれない。

もともとある技術を大切に育む

三日月 もともとある技術を大切に育んでいますよね。PITにしてスペースバルーンにしても。最初は興味で始めたものを大事に大事に時間とノウハウをかけて進歩させる。

森さん 普通の会社は古くなった技術や商品を引き出しにしまうと、そのまま終わるんです。僕らは引き出しに入れてももう一回出して、「腐っているかもしれないけど、熟成肉と一緒で外だけ切れば食えるかもしれない(使えるかもしれない)」と考えます。それと「マーケットはあるんですか?」と聞く人がいますが、マーケットを作るのはあなたの仕事でしょうといつも思います。「先にマーケットを作ってよ」というのはおかしな話なんです。結局、モチベーションとか好奇心とかが欠けているんですね。僕らは新しい技術を見つけると「こんなんある」と大騒ぎします。それが大事。コロナで世界は大きく変わりました。その中で生き残るためには、企業はもっとチャレンジングにならなければならない。そういったものを見せられる存在にLAB.ASはなってほしい。ただ、GOCCO.は尖った刃物みたいなものなので、技術が分からない人が触ると切れちゃいます。LAB.ASはわれわれが持っているテクノロジーやクリエイティブな部分をうまくマージ(融合)して、これとこれを組み合わせましょうと提案できるような会社になってほしい。

三日月 GOCCO.とLAB.ASは思想が極めて近く、今後も共存共栄していけるパートナーだと思います。そのプラットホームみたいなものを一緒に企画して広めていきたいですね。