2021.11.22

対談#2:マップアプリから仕掛ける地域活性化
-LAB.AS 紀之定 x (株)コギト 臼井

インタビューのお相手は京都府のクリエイティブIT企業:株式会社コギトの臼井さん。コギトのプロダクトである「ambla map」に触れながら、マップアプリを活用した地域活性化について語りました。

臼井伸介氏:株式会社コギト取締役

観光誘客に魅力的な滞在コンテンツを造る

ambula mapは、古地図やイラストマップを見ながら町歩きが楽しめるスマホ用アプリ。地図にGPS機能が埋め込まれており、通常の地図にもワンタッチで切り替えることができる。現在、全国約80カ所の観光地などの地図を揃えており、紀之定が取締役を務める真生印刷株式会社も昨年、地元・堺の歴史地区の散策マップを作った。

紀之定正一 コギトさんを知ったのは、古地図ライブラリーを運営している紙屋さんに紹介してもらったのがきっかけでした。私たちは8年前、地域活性化のお役に立ちたいと「堺・泉州プロジェクト」という活動を立ち上げ、百舌鳥・古市古墳群の世界遺産登録の応援などをしていました。この活動を知った紙屋さんが「ユニークなイラストマップ表示アプリをつくった会社が京都にあるよ」と教えてくださったんです。ambula mapを初めてみたとき、「これは使えるな」って思いましたね。

臼井伸介さん 当社社長の太田稔は15年ほど前、「時代MAP」という本を出版しました。古地図と現代の地図を重ねることができるガイドマップで、京都の安土桃山編や幕末・維新編、東京の大江戸編があり、タモリさんの番組でも使っていただいた。これをスマホのアプリ化する企画が立ち上がり、3年前にリリースしたのがambula mapです。

紀之定 堺には古墳だけでなく、中世から江戸時代にかけて栄えた「環濠都市」という歴史遺産もあり、市も最近PRに力を入れています。古い地図も残っているので、このアプリは堺にマッチするなと思いました。観光庁の「誘客多角化の魅力的な滞在コンテンツ造成」実証事業に採択され昨年、ambula mapで利用できる環濠都市・堺の散策マップを作りました。幕末の地図が現代の地図にうまく重ねることができるのには驚きました。

臼井さん 当社は東京の地図製作会社さんと一緒に、古地図再生というサービスもしています。昔の地図は手書きですから距離とか面積が間違っていることが多い。江戸時代になると割と正確になるんですが…。それで現代の地図製作技術を使って距離や方位を修正するんです。大事なのは「加賀藩屋敷」といった地図に書いてある文字も読めるようにすること。筆書きで草書体だから今の人は読めない。すると古美術品みたいになってしまう。われわれは、それを現代で使える地図に再生させるわけです。

紀之定 堺観光ボランティア協会でambla mapの使い方を説明したことがあるんですが、皆さん、「今まで分からなかった文字が読める」と喜んでいましたね。

臼井さん 今、いろいろな古地図アプリがありますが、再生古地図を使っているのは当社ともう1社しかありません。GPSとも連動できるので、古地図を見ながら散策したりできるわけです。いろいろなコンテンツも載せられるので、スタンプラリーにも使えます。

紀之定 今はコロナ禍でソーシャルディスタンスが求められています。スタンプラリーでも、だれが触ったか分からないスタンプを押したくない。このアプリだと、ポイントに近づくとスマホでスタンプが取れるので、感染症防止対策という意味でも有効です。

臼井さん 投稿機能もあって、利用者が撮影した写真などを張り付けることができます。よくSNSに「昨日、嵐山で撮影した紅葉です」といった写真を載せている人がいますが、ほかの人がそれを見に行きたくても場所が分からない。しかし、このアプリなら場所が分かるし、写真などを蓄積していくこともできる。フォトコンテストの機能もつけようと考えています。さらにスタンプラリーだと「何曜日の何時ごろに参加者が一番多い」といったログも取れます。観光立国を目指すなら、日本の観光産業もこれからPDCAが求められるようになります。そういう意味でも、ambula mapを活用することができると思います。

「ambula map」アプリが採用された「京都舞鶴まち探検マップ」では、デジタルスタンプラリーが開催された。アプリを活用して市民がまちを発見し、学び、伝える「地域学」を促進し、「IT を活用した心が通う便利で豊かな田舎暮らし」の実現のほか、今後観光用途などにも活用されている。

今後の観光は参加型イベントへ

紀之定 投稿機能があると参加型のイベントになる。今後の観光は参加型になるので、これは大事ですね。私はこのアプリを防災で使えないかと考えています。「将来、南海トラフ地震が発生すると、このあたりは何メートルの津波が来る」といったシミュレーションの動画を作り、地図上で分かるようにするとか。とくに2025年の大阪・関西万博には海外の方もたくさん来るので、こうした命を守る情報の提供が大事になります。

臼井さん 大阪・関西万博では会場案内で使っていただけないかと提案しています。

紀之定 1970年の大阪万博ではスタンプ帳を持ってパピリオンを回り、スタンプを押してもらったけど、2025年はambula mapでスタンプを集めるという感じですね。

臼井さん 社長の太田はもともと歴史の先生なんですが、「京都観光に来て清水寺や銀閣寺を回って満足している人が多いけど、全部時代が違う。これでは京都のだいご味を味わえない」とよく言うんです。京都ではいろいろな時代のものが地層のように重なっている。現代の地図と重ねたら、それをうまく表現できるのでは、と考えたのが15年前に「時代MAP」を出したきっかけだそうです。歴史って埋もれていて、それを伝えるのは大変です。でも時代時代に生きていた人たちがいて、それが現代にもつながっているわけです。そういったものを発見する喜びってあります。堺の環濠都市を歩いて「ここで戦国時代に鉄砲鍛冶がトンカチトンカチやっていたんだ」と分かると、興味がわきますよね。このアプリには「地域愛を育む」という効果もあるのではないかと考えています。

紀之定 堺で分かりましたが、古い地図って意外と残っていないんですよね。

臼井さん 書物は書き写すことができるけど、地図はそれが難しいから残っていない。源氏物語や日本書紀は文字だから現代まで残っているわけです。観光以外では東本願寺さんにもアプリを活用していただいています。東本願寺が管理する東大谷墓地は、大谷祖廟に隣接する京都・東山の斜面に1万基もの墓石が立ち並ぶ広大な霊園です。一つ一つのお墓に番号がふってあるんですが、あまりにも広すぎるため、迷う人も多い。それで当社がアプリの地図上にお墓の番号を入れました。場所が分からない参拝者には受付でタブレットを渡し、ambula mapを頼りにお墓に行ってもらうわけです。

紀之定 高野山などにも使えそうです。今後、さまざまな用途が考えられます。

臼井さん われわれが古地図の距離や方位を修正できるのはトポロジー(位相幾何学)の原理を応用したプロクラムを使っているからですが、最近、三次元でもできるように改修しました。新しい技術には緯度・経度だけでなく、高度も取り込めます。これを使って空間を一辺が10メートルのブロックに分けてIDで示すことができれば、いろいろな情報をやり取りできるわけです。国土交通省もちょうど、日本全国の都市情報などを3Dデータ化して、みんなで共有する「プラトー」というプロジェクトをスタートさせていますが、将来、都市計画や災害対策、車の自動運転などいろんな分野に活用できるんです。

紀之定 残念ながら、こういう分野でも日本は遅れていますよね。

臼井さん グーグルなども取り組み始めていますが、これは国の安全にもかかわる話。外国企業にそれを委ねるわけにはいかない。今年まで高校で地理は選択科目でしたけど、来年度から必修科目になるそうです。国もようやく地理の重要性に目覚めたようです。われわれも皆さんの力を借りてambula mapをさらに進化させたいと思います。